トヨタ・クラウン(FR/4AT)純国産車で、日本の高級車文化の「足るを知る」

新しければ「高級」という定義は、近年どこか破綻をきたしているように感じる。「高級車とは何か」を改めて考えさせられるバブル期のクラウンでその呪縛を解いてみたい。

新しければ「高級」という定義は、近年どこか破綻をきたしているように感じる。「高級車とは何か」を改めて考えさせられるバブル期のクラウンでその呪縛を解いてみたい。

日本の高級車文化の象徴

クラウン――この名を聞けば、日本の高級車文化の象徴として長年愛され続けてきた歴史が思い浮かぶ。

1955年に誕生した初代クラウンは、戦後日本が生み出した純国産高級セダンとしての地位を確立し、その後も国内外で高い評価を受け続けてきた。

クラウンは単なる自動車ではなく、「いつかはクラウン」という言葉と共に、社会的成功の証としての側面も持っていた。

トヨタ・クラウン(FR/4AT)純国産車で、日本の高級車文化の「足るを知る」

クラウンの歴史は、時代ごとの日本の自動車文化を映し出してきた。初代モデルは当時としては珍しい国産の高級車として登場し、トヨタの技術力の粋を結集した設計だった。

1960年代の2代目、3代目では高級感をさらに増し、70年代には6代目S110型で直列6気筒エンジンを採用するなど、走行性能の向上も図られた。

そして1980年代に入ると、クラウンはよりシンプルで洗練されたデザインと走行性能を兼ね備えたモデルへと進化していった。

トヨタ・クラウン(FR/4AT)純国産車で、日本の高級車文化の「足るを知る」

本稿で試乗する1992年式のクラウンは、S130型の後期モデルにあたる。1987年にデビューした130系は、それまでの直線的なデザインから流れるようなシルエットへと変わった。

あらためてじっくりと眺めて、覚えていたはずの記憶と照らし合わせる。イルカのようなヌメッとしたボディはシンプルで優美だ。テールランプの位置は世の中の常識よりも低い。だから強く印象にのこる。ボディカラーもこの時代ならでは。日のあたり方で色合いが変わる。

バブル期に生まれたこともあり、内装や走行性能に一切の妥協を許さない作りとなっている。まさに「王道のセダン」としての完成度を誇る。

今回試乗するのは、1992年式 クラウン 2.5 スーパーサルーンエクストラ。搭載されるエンジンは、2.5リッター直列6気筒DOHC(1JZ-GE型 )。最高出力180PS、最大トルク235Nmを発生し、4速ATを組み合わせる。

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「高級車とは何か」

ドアを開けると、そこには「高級車とは何か」を改めて考えさせられるインテリアが広がる。ソフトタッチのダッシュボード、木目パネル、ベルベット調のシート。

バブル期のトヨタが惜しみなく投入した素材の質感が、この車の品格を体現する。

手触りの良いウッドパネルと落ち着いた内装デザインは、30年近く経った今でもおもてなしの心に満ちている。

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イグニッションを回し、1JZ-GEエンジンを目覚めさせる。アイドリングは極めて静かで、エンジンの存在を感じさせないほどスムーズだ。

シフトレバーをDレンジに入れ、ゆっくりとアクセルを踏み込む。以外にもザラリとしたエンジンフィーリングが手元、足元に伝わる(音量は後述のとおり小さい)。しかしそこからの加速は、まるで滑るようにスムーズ。トルクが分厚く、街中のストップ&ゴーでもストレスを感じさせない。

特筆すべきはその静粛性だ。60km/hで巡航すると、風切り音もロードノイズもほぼ皆無。室内の空気がちょっと薄いとさえ感じさせるくらいだ。

トヨタ・クラウン(FR/4AT)純国産車で、日本の高級車文化の「足るを知る」

てっきり「浮遊感」のある乗り心地かと思っていたが、じつのところそうではない、という点も面白かった。適度に硬さを持たせたサスペンションが、路面の凹凸を的確にいなしている印象。実直だ。

また、高速道路ではクラウンの真価がさらに発揮される。100km/h巡航時のエンジン回転数は約2500rpmと低く、長距離移動でも疲れを感じさせない。

直列6気筒ならではの伸びやかな加速フィールも相まって、走りにたっぷりとした余裕がある。長距離移動でも快適性を損なうことはなく、むしろ乗れば乗るほど、この車の素晴らしさを実感することができる。

これこそを味というのだと思う。

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ちっとも褪せていない

試乗を終えた今、改めてこの1992年式クラウン 2.5 スーパーサルーンエクストラの価値を考えてみる。

このクルマは、単なる「昔の高級車」ではない。

むしろ、現代の車が失いつつある「本当の高級感」を今に伝える存在だ。

トヨタ・クラウン(FR/4AT)純国産車で、日本の高級車文化の「足るを知る」

現代の高級車は、電子制御技術やダウンサイジングターボ、ハイブリッドシステムなどによって、性能面では大きく進化している。

しかし、このクラウンが持つ「静かさ」「なめらかさ」「質感の高さ」は、スペック表には現れない部分でありながら、乗る者に確かな満足を与える要素である。

これを当時の技術と知見で実直に叶えたところに魅力がある。しかもその魅力がちっとも褪せていない。

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また、耐久性の高さもクラウンの魅力のひとつだ。1JZ-GEエンジンは高い信頼性を誇り、適切なメンテナンスを施せば20万km以上の走行も容易にこなす(テスト車はたったの3000kmしか走っていないけれど)。

内装の作り込みも頑丈で、30年以上経過した今でも、当時のクオリティを維持している個体が多い。

中古市場では、130系クラウンの価値が再評価されつつある。特に、ノーマルの状態を保っている個体は希少であり、コンディションの良いものを見つけるのは年々難しくなっている。

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もし、クラウンの本質を体感したいのであれば、状態の良い個体を手に入れることを強くおすすめする。テスト車のように完璧であればあるほどいい。

「高級車とは何か?」――この問いに対する答えのひとつが、1992年式クラウン 2.5 スーパーサルーンエクストラにある。王道のセダンが持つ、圧倒的な快適性と品格。

そのすべてが、この一台には凝縮されているのだ。

SPEC

トヨタ・クラウン

年式
1992年式
全長
4800mm
全幅
1750mm
全高
1440mm
ホイールベース
2730mm
車重
1570kg
パワートレイン
2.5リッター直列6気筒
トランスミッション
4AT
エンジン最高出力
180ps/6000rpm
エンジン最大トルク
235Nm/4800rpm
タイヤ(前)
205/65R15
タイヤ(後)
205/65R15
  • 上野太朗 Taro Ueno

    幼少から車漬け。ミニカー、車ゲーム、車雑誌しか買ってもらえなかった男の末路は、やっぱり車。今、買って買って買ってます。エンジンとかサスとか機構も大事だけれど、納車までの眠れない夜とか、乗ってる自分をこう見られたいとか、買ったからには田舎に錦を飾りにいきたいとか、そんなのも含めて、車趣味だと思います。凝り固まった思想を捨てたら、窓越しの世界がもっと鮮やかになりました。

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