BMW 116i(FR/8AT)製造コスト< BMWらしさ追求のエントリーモデル

通常エントリーモデルというものは、価格を抑え、新たな顧客へ窓口を広げる手法がとられる。しかしBMWは価格を抑えることより「駆けぬける歓び」への窓口を設けたのだ。

通常エントリーモデルというものは、価格を抑え、新たな顧客へ窓口を広げる手法がとられる。しかしBMWは価格を抑えることより「駆けぬける歓び」への窓口を設けたのだ。

異例の設計

BMWのエントリーモデルとして2004年に登場した1シリーズ(E87型)は、コンパクトカーでありながら後輪駆動(FR)を採用するという異例の設計を持っていた。

プレミアムコンパクトの枠を超えたハンドリング性能は、多くのBMWファンを魅了し、「小さな駆けぬける歓び」を実現する車として確固たる地位を築いた。

BMW 116i(FR/8AT)製造コスト< BMWらしさ追求のエントリーモデル

そして2011年、その2代目となるF20型が登場。従来モデルと同じくFRレイアウトを採用しながら、より洗練されたデザインと先進技術を取り入れた。

ボディサイズは拡大され、ホイールベースも延長。これにより、先代のウィークポイントであったリアシートの狭さが改善された。

インテリアには高級感のある素材が使われ、従来モデルよりも快適性が向上している。

BMW 116i(FR/8AT)製造コスト< BMWらしさ追求のエントリーモデル

その中でも、今回試乗する2013年式 116iは、シリーズのエントリーモデルとして位置づけられるが、決して「ベーシックなだけ」の車ではない。

搭載されるエンジンは、1.6リッター直列4気筒ターボ(N13B16A型)。

最高出力136ps、最大トルク220Nmを発生し、1.3tの車重に対して十分な動力性能といえるだろう。

BMW 116i(FR/8AT)製造コスト< BMWらしさ追求のエントリーモデル

また、燃費性能にも優れ、ストップ&ゴーが多い都市部でも経済的なドライビングを実現する。

BMWのエコプロモードを活用すれば、燃費を最大限に伸ばすことができる設計となっており、環境性能とスポーティな走行性能を両立した一台である。

では、この「FRコンパクトの魅力」を、実際にステアリングを握りながら確かめてみよう。

BMW 116i(FR/8AT)製造コスト< BMWらしさ追求のエントリーモデル

素材の選択が見事

運転席に乗り込むと、BMWらしいドライバーオリエンテッドなインテリアが広がる。この車格でありながら、素材の選択が見事で安っぽさは毛頭ない。耐久性も高い。しつらえも立派だと思う。

コクピットはドライバーを包み込むようなデザインで、視界も良好。スポーティな3本スポークのステアリングホイールは適度な太さと重みがあり、握るだけで「走る準備」が整う感覚がある。

BMW 116i(FR/8AT)製造コスト< BMWらしさ追求のエントリーモデル

スタートボタンを押すと、N13B16Aエンジンが目を覚ます。アイドリング時は静かでスムーズだが、アクセルを踏み込むと直噴ターボならではの力強いトルクが立ち上がる。

特に低速からのレスポンスが良好で、市街地でのストップ&ゴーでもストレスを感じさせない。

ハンドリングに関しては、「さすがBMW」と思わざるを得ない。50:50の前後重量配分、ダブルピボット式フロントサスペンション、マルチリンク式リアサスペンションが生み出す自然なフィーリング。

コーナーではフロントの入りが素直で、後輪駆動ならではの安定感と旋回性能の高さを存分に味わえる。

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また、8速ATとの組み合わせも見事だ。トルクバンドを的確に捉え、スムーズかつダイレクトなシフトチェンジを実現している。

パドルシフトを活用すれば、ワインディングロードでのスポーツドライビングも楽しめる。アクセルを踏み込むたびに、「この車、本当に1.6リッターか?」と思わせるほどの余裕を感じる。

高速クルージングも得意だ。100km/h巡航時のエンジン回転数は約2000rpmと低く、静粛性も高い。長距離走行でも疲労感が少なく、「プレミアムコンパクト」の名にふさわしい快適性を備えている。

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サスペンションのチューニングも絶妙で、しっかりとした剛性感がありながらも、路面の凹凸をしなやかに吸収する。

いやなところがひとつもないどころか、安心できる。そして楽しい。

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軽快さと安定感

試乗を終えた今、改めて考える。このBMW 1シリーズ 116iという車は、単なるエントリーモデルではない。「BMWらしさ」を最も純粋な形で味わえるコンパクトFRハッチバックであることがわかった。

質素であるからこそ、よりピュアに哲学を浴びられる。

BMWの哲学は「駆けぬける歓び」。それは単に馬力や加速性能を競うものではなく、ドライバーと車が一体となる感覚を生み出すことにある。

その点で、この116iは、FRレイアウトと緻密なサスペンション設計によって「軽快さと安定感の両立」を実現している。

BMW 116i(FR/8AT)製造コスト< BMWらしさ追求のエントリーモデル

2019年に登場した次世代の3代目(F40型)はFFレイアウトへと変更された。

これはパッケージングやコスト面での合理化の結果だが(こちらもFFとは思えないくらいの素晴らしいドライブフィールではあるけれど⋯)、FRならではのダイレクトなハンドリングを持つ1シリーズは、この2代目(F20型)が最後となった。

そのため、「最後のFRハッチバック」として、この車の価値は今後さらに高まることだろう。

BMW 116i(FR/8AT)製造コスト< BMWらしさ追求のエントリーモデル

中古市場では、比較的リーズナブルな価格で流通しているが、状態の良い個体を見つけるのは年々難しくなってきている。

もし、「BMWの本質をコンパクトなボディで味わいたい」と思うならば、この2013年式 BMW 116iは、間違いなく魅力的な選択肢となるはずだ。7000kmという走行距離が何よりの根拠だ。

FRレイアウト、バランスの取れたハンドリング、適度なパワー、そしてレベルの高い内装。そんな1台を探しているなら、ぜひステアリングを握り、この車の持つ真の価値を体感してほしい。

SPEC

BMW 116i

年式
2013年式
全長
4335m
全幅
1765mm
全高
1440mm
ホイールベース
2690mm
パワートレイン
1.6リッター直列4気筒ターボ
エンジン最高出力
136ps/4400~6450rpm
エンジン最大トルク
220Nm/1350~4300rpm
タイヤ(前)
205/55R16
タイヤ(後)
205/55R16
  • 上野太朗 Taro Ueno

    幼少から車漬け。ミニカー、車ゲーム、車雑誌しか買ってもらえなかった男の末路は、やっぱり車。今、買って買って買ってます。エンジンとかサスとか機構も大事だけれど、納車までの眠れない夜とか、乗ってる自分をこう見られたいとか、買ったからには田舎に錦を飾りにいきたいとか、そんなのも含めて、車趣味だと思います。凝り固まった思想を捨てたら、窓越しの世界がもっと鮮やかになりました。

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