トヨタ・セルシオ(FR/5AT)この車名こそ令和の時代に復活してほしい

オートローン、残価設定型クレジット、リース。この20年程で多種多様なクルマの持ち方が普及した。「現金一括」そんな当時のイメージが色濃く残る真の高級車を味わう。

オートローン、残価設定型クレジット、リース。この20年程で多種多様なクルマの持ち方が普及した。「現金一括」そんな当時のイメージが色濃く残る真の高級車を味わう。

セルシオという「異国」への招待

車の世界には、確かな「王道」がある。静かで、滑らかで、広々としていて、圧倒的な質感を持つ。

それは、ドイツ車で言えばメルセデス・ベンツSクラス、あるいはBMW 7シリーズ。しかし、日本には、日本だけの「王道」があった。

その名はトヨタ・セルシオ。

トヨタ・セルシオ(FR/5AT)この車名こそ令和の時代に復活してほしい

初代モデル(1989年)のデビューはセンセーショナルだった。アメリカ市場ではレクサスLS400として、ジャーマン・サルーンの牙城に切り込む。

静粛性の極致、研ぎ澄まされたエンジン、異次元の快適性。だが、それは序章に過ぎなかった。

そして2000年、三代目セルシオ(UCF30)の登場。世界の頂点を狙うべくして作られた、このフラッグシップサルーンは、それまでのセルシオをはるかに凌ぐ完成度を誇る。

デザインは一新され、エンジンはV8 4.3リッター(3UZ-FE)へと進化。電子制御サスペンション、エアサス、そして最新鋭の安全装備を備えた「日本の至宝」は、いったいどんな世界を見せてくれるのか。

トヨタ・セルシオ(FR/5AT)この車名こそ令和の時代に復活してほしい

セルシオの三代目が目指したものは、単なる高級車の枠を超えた、極限まで洗練された移動空間の創造だった。

トヨタは「静粛性」「快適性」「耐久性」のさらなる向上を掲げ、開発に膨大なコストと時間を費やした。特に注目すべきは、その静粛性への徹底したこだわりだ。

ボディには高剛性のスチールとアルミニウムを組み合わせ、風切り音を抑えるために最新の空力設計が施された。さらには、吸音材の配置や遮音ガラスの採用により、静粛性は先代モデルをも凌ぐレベルに達している。

トヨタ・セルシオ(FR/5AT)この車名こそ令和の時代に復活してほしい

インテリアに目を向けると、その贅を尽くした作り込みに息をのむ。職人が手作業で仕上げた本木目パネル、肌触りの良いナッパレザー、きめ細やかに調整できる電動シート。

細部に至るまでこだわり抜かれた空間が、乗る者に究極の安らぎを与える。

セルシオは単なるクルマではない。それは、移動そのものを「体験」へと昇華させる、まさに異国のような別世界なのだ。

トヨタ・セルシオ(FR/5AT)この車名こそ令和の時代に復活してほしい

静寂の帝国を駆る

ドアを開けた瞬間、そこに広がるのは「異国」である。木目パネルと本革の匂いが入り混じるキャビン。シートは、まるで高級ソファ。ドライビングポジションを決め、エンジンスタートボタンを押す。

無音。

セルシオの心臓部、3UZ-FE型V8エンジンは、その存在をひた隠しにしてアイドリングする。軽くアクセルを踏むと、しっとりとした回転フィールとともに、滑らかに加速。最大出力280馬力(国内仕様)ながら、トルクの厚みは圧倒的。わずか2000rpmから力強く盛り上がる。

トヨタ・セルシオ(FR/5AT)この車名こそ令和の時代に復活してほしい

だが、この車の真価は「速さ」ではない。静けさだ。当時の視点でみると風切り音ゼロ、エンジン音ゼロ、ロードノイズもゼロに等しい。

それはまるで、世界から切り離されたプライベート空間。オーディオから流れる音楽だけが、この静寂の帝国を彩る。

エアサスペンションは、路面の凹凸を完全に吸収。どんな荒れた舗装路でも、まるで雲の上を走っているようだ。ステアリングは軽く、それでいてしっかりとしたフィール。すべてがドライバーの意思に寄り添う。まさに「動く高級旅館」。

トヨタ・セルシオ(FR/5AT)この車名こそ令和の時代に復活してほしい

セルシオが提供するのは、究極の移動体験だ。特に長距離移動において、その快適性は絶対的なアドバンテージとなる。

シートは長時間のドライブでも疲労を感じさせず、キャビン内の温度や湿度は絶妙に保たれる。

トヨタが誇る先進的な気候制御システムが、常に理想的な環境を提供するのだ。

トヨタ・セルシオ(FR/5AT)この車名こそ令和の時代に復活してほしい

このクルマは、どこへ向かうのか

さて、2001年式セルシオを試乗し、ひとつ確信したことがある。それは、この車が「人間の移動における究極の解答」に限りなく近づいているということだ。

乗る者を一切のストレスから解放し、快適という一点にすべてを注ぐ。それは、日本のクルマづくりのひとつの到達点であり、トヨタの技術力が世界に誇る芸術品である。

トヨタ・セルシオ(FR/5AT)この車名こそ令和の時代に復活してほしい

しかし、セルシオはこの三代目を最後に、次なるステージへと進化を遂げることになる。

2006年、トヨタはついに「レクサス」を日本市場へ本格導入。そのフラッグシップとして、セルシオはレクサスLS460へとバトンを渡した。

それでも、2001年式セルシオは、単なる過去の遺産ではない。 今なお、このクルマに乗ると、その圧倒的な完成度に驚かされる。最新の高級車がいくら進化を遂げても、この静寂、この滑らかさ、この心地よさには、なかなか辿り着けない。

トヨタ・セルシオ(FR/5AT)この車名こそ令和の時代に復活してほしい

21世紀初頭、日本が生み出した「異国」のような移動空間。その価値を知る者だけが、この車の本当の意味を理解することができるのだ。

いままで輸入車ばかりに目がいっていた自分が、ちょっと恥ずかしくなった。

SPEC

トヨタ・セルシオ

年式
2001年式
全長
4995mm
全幅
1830mm
全高
1490mm
ホイールベース
2925mm
車重
1780kg
パワートレイン
4.3リッター V型8気筒
トランスミッション
5速AT
エンジン最高出力
280ps/5600rpm
エンジン最大トルク
430Nm/3400rpm
タイヤ(前)
225/60R16
タイヤ(後)
225/60R16
  • 上野太朗 Taro Ueno

    幼少から車漬け。ミニカー、車ゲーム、車雑誌しか買ってもらえなかった男の末路は、やっぱり車。今、買って買って買ってます。エンジンとかサスとか機構も大事だけれど、納車までの眠れない夜とか、乗ってる自分をこう見られたいとか、買ったからには田舎に錦を飾りにいきたいとか、そんなのも含めて、車趣味だと思います。凝り固まった思想を捨てたら、窓越しの世界がもっと鮮やかになりました。

    著者の記事一覧へ

メーカー
価格
店舗
並べ替え